「バンクーバーの朝日」の原作紹介とあらすじとネタバレを少々
「むこうで3年働けば日本で一生楽に暮らせる」
いつかは日本に帰って喝采を浴びるのだと信じて海を渡った男たち。ひとつの日本人旅館の開業を皮切りに、次々と日本人による商店が軒を連ねていったパウエル街という日本人居住地区。現実は危険かつ厳しい肉体労働の繰り返しを余儀なくされ、低賃金で使い倒され、清潔とはいえない生活環境でなんとか生きようと必至に生き抜いてきた日本人達。
現地のカナダ人からは疎まれ、差別され、様々な日本人排斥を目的にした法令で追いやられながらも家族を作り、子どもが生まれた。日本移民の2世たちである。そんな親世代の差別の苦しみ、白人への憎悪はどこか遠い世界の現実離れした世界にしか思えない無邪気な子どもたち。両親たちがいうほど、差別なんてない平等な世界じゃないか、そう思っていた。
成人し仕事につきはじめた2世たち
学校の成績は悪くなかった。白人たちと同じ授業を受け、同じ教育を受け、同じ環境で育った。28才になったレジー(日本名は礼二、妻夫木聡)はここバンクーバーでの厳しい現実を諦めるという形でしか受け入れることに慣れてしまっていた。移住以来40年も経過するのに一向に英語を覚えず、日本人たちとばかり固まって白人たちへの愚痴と憎しみを増していく父。
バンクーバーには日本人会という組織があったが、その組織はカナダ社会への同化を推進。しかし日本人労働者たちは一向に生活環境が改善せず、低賃金で厳しい労働を課され、日に日に経済状況が困窮していく日々の生活に鬱憤を溜め込んでいた。
そんな日本人街、パウエル街にあるたった一つの心の拠り所。それが日本人で結成された野球チーム、朝日だった。
野球チーム・朝日
朝日は日本人労働者のコミュニティ内で結成された野球チームで、その他にも幾つかの野球チームが結成されていた。その中でも圧倒的な強さを誇っていたのが朝日で、いつしか朝日でプレーすることは日本人労働者の子供たちにとって憧れとなり、希望の星でもあった。
そんな朝日が白人たちによるチームと戦うリーグ戦に加盟が決まったとき、「白人たちをやっつけろ」という共通の敵に向かいチームへの期待は大きくなった。しかし、連戦連敗。チームはリーグ加盟から万年最下位という屈辱的な成績を残していたのである。
仕事でも、生活でも、野球でも白人に敵わない。2世という境遇でカナダに産まれ育った彼らは、その複雑な環境の中で様々な葛藤を各々が抱えつつ生きていた。
頭脳野球で活路を見出す朝日
そんな連戦連敗を繰り返していた朝日だったが、レジーのある一つのプレーから活路を見出していく。送りバント。盗塁。ひたすらバント攻撃、そしてひたすらに走る。小さな体格と貧弱なパワーは白人たちとの対峙で嫌というほど痛感し苦汁をなめてきた彼らだったが、そのデメリットをメリットに変えることに成功したのである。