原作小説でのラスト、そしてNHKのドラマの結末も、はっきりと最期を描くというよりは若干曖昧なものでした。映画版ではどのような結末描写になるかは実際に見てみないと分かりませんが、原作の終わり方とその解釈をご紹介します。
原作文庫版小説・紙の月の結末
逮捕されたのかされていないのか?はっきりと逮捕されたというシーンはありません。しかし、「あぁ、そのまま逮捕されるんだろうな」という含みをもたせた終わり方であることには違いありません。
原作小説の始まりと終わりの舞台はタイ。横領の全貌が明かされることを悟った梨花は海外へ逃亡し、タイへ入国する。タイはビザなく30日間は過ごせます。そのまま残ればオーバーステイとなって処罰対象になり、出国すればパスポートの提示を求められ、海外手配されている自分の素性が明らかになってしまう。
とりあえずタイへと入国した彼女は人混みにまぎれるように大都市のバンコクに潜伏するが逆に目につくことを恐れた彼女は大都市でもなく田舎でもない、国境近くのチェンマイへと移動。
ラオスとタイの国境付近で迎える結末
オーバーステイか、出国か。最後まで結論を出せない彼女は、そのまま前へ、前へ、前へと突き進む。原作の小説では宿泊するゲストハウスに男が現れ、パスポートの提示を求めるシーンで終りを迎えます。
そして「ここまでだ。これで終わりだ」の言葉の後、パスポートを提示し彼女はこんな一言を発する。
かつて愛した男が言ったのと同じ言葉を。
「私をここから連れだして下さい」と。
梨花以外の結末
岡崎木綿子。結婚後、行き過ぎた節約で家族との関係が悪化しつつあった彼女。「お金でなんでも解決できる、娘にそう思っていない」という彼女なりの目的があったが、娘がある日万引きをしてしまう。なだめる夫に厳しい言葉をかけ続け愛想を尽かしそうになるも、その後大切な娘に涙を流して謝る母親の姿がそこにはあった。
中条亜紀。買物依存症で離婚し、今は出版関係の編集プロダクションに勤務。2年ぶりに再会した13歳の一人娘との関係は「ものを買い与えること」でのみ繋がっていた。始めて娘の要望を拒否し、憮然な顔を浮かべる娘を涙を流して抱きしめる。
梨花と亜紀
行方をくらました梨花もまた、亜紀のことを思い浮かべているのだろうか。ある意味ではお金に振り回され、自分の人生を狂わせた似たもの同士なのかもしれません。あなたは最後の結末を迎えた時に、共感するでしょうか、共感できないでしょうか。
大抵の人には共感できないでしょう。しかし、その結末のみではなく、結末に至った小さな経緯と出来事は誰にでもあるほんの些細なことです。その些細な事がこのような結末を迎えてしまう可能性がある、ということに気付くだけでも十分なのかもしれません。